運送会社で事務をやる場合にはほぼ100%といっていいほど会社から取ってこいと言われる「運行管理」ですが、今回はその概要と試験内容・対策などについてざっくりと解説していきたいと思います。ここでは筆者も持っている運行管理者『貨物』について解説していきます。
※運行管理者試験は法令の改正などに伴い毎年変わる試験です。あくまでも筆者が受験した時の情報ですので必ずHP等確認の上受験してください※
運行管理者【貨物】の資格取得条件
運行管理者資格の取得には主に2種類の方法があります。
①実務経験による取得
実は運行管理者資格は試験に合格しなくても取得できます。
それは実務経験による取得です。運行管理の基礎講習・または一般講習を期間内に規定の回数受講した上で運行管理の現場に5年以上(主に運行管理補助者としての業務)携わっている者という条件で試験なしで取得できます。
運送会社の事務に入社して基礎講習と一般講習だけ受けて時折補助者として点呼業務をしている人で試験に落ちまくっている人でも5年すれば取得できるということになります。
②試験合格
もう一つは年2回開催される運行管理者資格者試験に合格する方法です。一番オーソドックスな方法です。流石に実際の現場で「5年すれば取得できるから頑張らなくてもいいよ」と言ってくれるところはほとんどないでしょう。
受験資格は「基礎講習の修了」または「基礎講習の修了見込み」です。基礎講習とは運行管理に必要な法律の基礎知識や実務的なところを教えてくれる集合講習です。平日3日間朝から夕方までのところがほとんどなので仕事をしている人であれば会社の協力がないとなかなか日程が取れません。詳細については各都道府県の陸運支局やトラック協会・運行管理者試験センターのHPを確認してみてください。
受験申請の際に基礎講習修了証の提出を求められるので不正はできませんのでご注意ください。
「5年も待てるか!」ということで多くの人は試験で一発合格を狙うはずです。ここからは試験の概要について解説していきます。
試験概要
まず、ザックリとした試験の大枠について解説していきます。
①「貨物」と「旅客」の違い
運送業といっても大きく2つに分類されます。それが「貨物」と「旅客」です。
「貨物」は読んで字の如く物を運ぶ運送です。ヤマト運輸さんや佐川急便さんを代表する『物流』です。

「旅客」は高速バスやタクシーといったお金をもらって『人』を運ぶ運送業です。

運行管理者試験でも「貨物」と「旅客」は分かれているので間違えないように注意しましょう。
②試験日程
試験は概ね年に2回8月と3月に行われています。
公益財団法人運行管理者試験センターが行う試験なので年度ごとの試験で8月が「〇〇年度第一回」で3月が「〇〇年度第二回」となります。
申し込み期限は概ね2ヶ月前から1ヶ月前までで8月試験の場合は6月から7月くらいの期間が多いようです。
また、試験日はCBT試験(後述するパソコンによる試験)の都合上、試験期間内に予約の取れる都合の良い日となります。そのため試験期間も8月(3月)いっぱいとかなり長い期間となります。
しかし、都合の良い日が取れるというメリットの反面試験会場のキャパを超えると違う地区の予約しか取れなくなるというデメリットもあります。日程ギリギリで申し込んだ人が片道40キロ離れた隣のエリアで受験したという話も聞きます。試験会場が多い都心部では無用な心配ですが受験会場が少ない地方では早めの予約が無難でしょう。
③試験会場
パソコンで受けられるCBT試験のおかげでどこか大きな会場に集合して一斉に試験というスタイルではなくなったのである程度は選択できるようになりましたが、結局はプロメトリックという会社の試験センターの場所で受けなければなりません。
筆者の居住地もそうでしたがオフィスビルの中に入っていることもあるので事前の場所確認は必須です。街中すぎると駐車場探しに悩まされる場合があります。地域性もありますが会場の場所と日程の確認はマストです。「多分大丈夫でしょ!」「なんとかなるよ!」で行けば痛い目を見る可能性があります。
④試験方法
ここまでにも少し解説していますが、現在の運行管理者試験は「CBT試験」というパソコンを使った試験です。コロナ禍以降この試験方式に変わったという話です。
全30問の選択式試験です。択一式もあれば複数回答式もあります。
試験会場に行くと受付で受験票(メール等のコピーなど)と本人確認が求められ大丈夫であれば説明を受けてパソコンに案内されます。
パソコンは個別指導塾のようにパーテーションで仕切られており机にはディスプレイとマウス・キーボード・耳栓がわりのヘッドホン・メモ用の紙とペンしかありません。会場にもよるのでしょうが基本的には監視カメラでモニターされており不正はできないようになっています。
⑤合格発表
合格発表は運行管理者試験センターのHPでも公開されますが、試験最終日から約2〜3週間後に郵送にて行われて申請書などが同封されてきます。
試験内容
ここからは少し具体的な試験内容に触れて解説していきます。
①試験方式
試験の方式としては前項でも解説したように選択式です。選択肢は全問4択です。ただし、択一式のものもあれば複数選択の問題もあります。
運行管理者試験の合格率が低いのは複数選択式の問題で「2つ選べ」など数指定ではなく「すべて選べ」というオープンスタイルで来る問題が多いという点も挙げられます。さすがに選択肢0も4もありませんでしたが1や3はザラにあります。
それに加えて最終章の「実務上の知識及び能力」では明確に数値で示さない「日本語の問題」的な選択肢も多くなります。そのため確実な理解が必要になってきます。
②試験範囲
運行管理者試験「貨物」の試験範囲は大きく分けて5題です。
- 貨物運送事業法関係(8問)
- 道路運送車両法(4問)
- 道路交通法(5問)
- 労働基準法(6問)
- 実務上の知識及び能力(7問)
の5分野で合計30問です。
貨物運送事業法
運送会社をやるならこれは守ってねという法律です。
ここに運行管理者の職務内容などが記載されています。また、最近大スキャンダルになった日本郵政さんの不正点呼問題に代表される「点呼」についても書かれています。
道路運送車両法
車の車検や変更届などに関する法律です。運送業に使う車は3ヶ月ごとに点検しましょうということや所在地の変更、譲渡しなどがあった場合はどうしましょうという法律です。
道路交通法
俗にいう「道交法」で車で走る場合は交通ルールを守りましょうという章です。道路標識や基本的な交通ルール、大型・中型の区分などが問われます。
運転免許試験の鬼引っ掛け問題とまでは行きませんが多くの人が勘違いしている際どいところをつく問題も時折出題されます。
また、「しなければならない」「してはならない」など細かい言い回しが頻出する項目でもあります。
労働基準法
何時間以上仕事をさせては行けない、何時間以上走らせては行けない(ハンドル時間)という数字が多く問われる項目です。
実務経験がある人からすると一番実践的な項目です。言い換えると現場経験者はここで落としたら全体で得点できなくなるという項目です。
ただし、法改正により毎年出題傾向が変わる難しい項目でもあります
実務上の知識及び能力
毎年変わる一番なんでもありの項目です。
小学生で習う『は(速さ)・じ(時間)・き(距離)』の計算が出てきたり点呼の実務について聞かれたり、事故事例を出されたり、危険予知訓練のような出題をされたりと本当に幅広い問題です。
さらに、近年ではこの項目は全問「すべて選べ」の複数回答スタイルなので苦手な人は苦手ですし試験テクニックの消去法スタイルが使えないので難しくなります。
③合格ライン
合格ラインは全体の6割で各項目1問以上の正解です。よくある資格試験と一緒ですが、大きく5章別れるうちの最後の「実務上の知識及び能力」は2問以上の正解が必要です。「全項目においてそれぞれ6割」ではなく「全体通して6割(ただし各項目最低1点ないし2点)取りましょう。」なので合格ラインのハードル自体は高くありません。
難易度
合格率は毎回30〜40%と決して高くはありません。
しかし、実際に受けて取得した感想としては「ある程度勉強すれば取れる」という程度で「すごく難しくてめっちゃ勉強した」というほどではありません。
合格率が低いのはどうしても各会社である程度ベテランドライバーさんあたりにまともに勉強させず「内勤したいなら取ってこい」という感じで適当に受験させるケースが多いから合格率が下がるんだろうなという感想です。
必須項目をしっかりと押さえて少しずつ知識で補強するを繰り返していけば取れるくらいの資格です。
筆者自身8月初旬の試験に向けて6月くらいから勉強して1日最大1.5時間くらいで7月頭には受験範囲を網羅してしまい他の資格試験の勉強をしながら忘れない程度の復習と補強をしながら8月頭の試験で合格しました。
ドライバーをやっていたということもありますが、結構前のことなうえにそこまで詳しいわけではなく人並みに車検の日程や労働基準法の時間などを知っている程度でほとんどアドバンテージはありませんでしたがいけました。
運行管理者試験の難しいポイント
実際に受験してみて難しいなと思った点やいやらしいなと思った点について解説していきます。
①範囲が広い
運行管理者試験は貨物運送事業法だけではなく道路運送車両法や道交法といった複数の法律を扱う試験です。その中でも道路運送車両法と道交法では車両の区分の仕方が異なります。その定義まで明確に覚えていないと答えられないような問題が時折出題されます。このように複数の法律の違う定義を明確に覚えていなければならなかったりグレーゾーンで片付けられるところとダメなところが問われたりと際どい質問も多いです。
とにかく範囲が広いのである程度要点を覚えるのは大事ですが全てを完璧にしようとするとかなりの時間が要りますし無理が出ます。基本的なことと大枠を押さえてあとは要点補強で行くと割り切らないと時間が足りなくなります。
特に道路交通法などは「どこが出るかわからない」といって完璧を求めると免許試験を一からやり直すことになりかねません。必要最低限の押さえるべきところを抑えるという意識が重要です。
②複数選択可の問題が多い
「一つ答えよ」ではなく「すべて選べ」が近年増えてきています。かつては5章の実務上の知識及び能力にしかなかったのですが近年ではいきなり1問目から「すべて選べ」を出してくることもあります。
「すべて選べ」では消去法による選択肢削除という試験テクニックが使いづらくなりより正確に理解していないといけなくなるので受験者にとっては難しくなります。
もちろんある程度の難易度は必要なのですが、不用意に難しくし過ぎるのもいかがなものかと思います。
③日本語問題が多い
明確に「◯日以内に・・・」という問題は正解かどうか分かるのですが「〜しなければならない」「××しても良い」という問題は内容によってはどうとでも捉えられるという場合があります。実際筆者が受けた試験でも「これは解説を求められたらどう説明するんだろうな・・・。多角的に捉えたら分からないよなー」という選択肢が何点かありました。
④法改正が多い
物流の2024年問題と話題になったように近年では法改正により大幅に現場も変わりました。これに合わせて運行管理者試験も変わりました。労働基準法の時間外ベースの計算基準から、ハンドル時間や拘束時間をベースにした時間に基準が変わったりしました。これにより試験でも時間外労働何時間という設問から拘束時間は月間で◯◯時間までという設問に変わってきています。このように法改正に合わせて設問が変わるのも運行管理者試験の難しいところではないでしょうか。
⑤最終2問は予想がつかない
「実務上の知識及び能力」の分野では最終2問は図やイラストを用いた問題が近年出題されていますが、運行計画のタイムスケジュールによる正誤問題であったりイラストによる危険予知であったり追い越しの時間計算であったりとなかなかに読めません。
幅が広く山を張って対策しても外れて詰むという場合が多く合格率を下げている一因でしょう。
⑥補足:CBT試験の難しさ
合格率がCBT試験開始前後であまり変わらないのでなんとも言えませんが、正直CBT試験は運行管理者試験には非常に不向きな方式だと言えます。
労働基準関係や実務上の知識では表や図・イラストを用いた計算問題が必ず一問以上出題されます。紙であれば問題文に直接書き出していける問題をいちいち手元のメモ用紙に書き出して再度計算するのでケアレスミスを誘発します。
また、人によっては問題文の誤っている部分に線を引いたりして何が違うのかをメモして選択肢を削除したりしますがそれもできません。
そのため「誤っているものを選べ」で正しい箇所を考えていたら間違って逆をやるということが時折起こります。
とにかく直接メモできないというのは苦手な人はとことん苦手な方式かもしれません。
まとめ
資格試験あるあるなのですが、合格者が増えたり過去問が充実してマンネリ化してくると問題を難しくして補強したりします。本来であれば言い回しを変えたりよく読めば理解できるような問題を出せば良いものを重箱の隅をつつくような選択肢を入れてみたり審議にかけられそうな選択肢を入れて解説で言い訳してみたりという問題が増えています。
また、2024年問題も相まって急激に法改正が進んでいます。その法改正に対応した問題を出そうとして難易度度外視の問題がぶっ込まれたりもします。
このように日々変わり続ける運行管理者試験ですが取れるところでしっかり得点していければ決して難しい試験ではありません!
これから受けようと思っている方はぜひ参考にしてみてください。
今後の試験の展望
ここからは勝手な妄想になりますが、現在はIT点呼だけではなく自動点呼システムというパソコンやAIが勝手に点呼してくれるシステムも登場しています。今後はそのような新システムに対する法規制などについての問題が追加されることも考えられます。
兎にも角にも法改正が多い試験なので常に知識のアップデートは必要です。
2年前の先輩が受けた時の参考書などではすでに法改正に対応していないものがほとんどなのでもったいなくても最新版を買いましょう。

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