『好きなことを仕事にする』のもっともわかりやすい例がアウトドアガイド(以下:ガイド)ではないでしょうか。ラフティングやキャニオニングといった水回りのアクティビティーからパラグライダーやスカイダイビングといった空を飛ぶ系のアクティビティーなど様々です。自分の好きな事を仕事にできてすごくやりがいもあって楽しい仕事ではありますが、同時に自然を相手にするのでなかなかハードで危険な一面もあります。筆者自身ガイド業を10年以上やっていますが、一度続けられないと感じ現場を離れた時期もありました。ここではその経験をもとにガイドの仕事の現実について書いていこうと思います。これからアウトドアガイドになりたいと思う方は参考にしてみてください。
現実①:年間通してできない
どんなアクティビティーでもそうですが通年やっているところというのはほとんどありません。わかりやすく言うと「夏にスキーはできない」という事です。もちろん本気の方々は室内練習場や夏でも似たような環境でできる施設を利用していますが一般ユーザーはほとんどいないはずです。一般ユーザーは夏は海に行ったり川に行ったりして涼を楽しみたいものです。
筆者自身SUPやカヌーといったウォーターアクティビティーのガイドをしていますがメインは夏場6月から9月の暑い時期だけです。予約自体は3月から11月まで受け付けてはいますがメインシーズン以外は土日にチラホラと予約が入るくらいで平日はほとんど開店休業状態です。ガイドという仕事の性質上ゲストの予約あってのものなので需要がない時期はほとんど仕事がありません。仕事がないということは無収入になってしまうということなのでシーズンが始まってもギリギリまでバイトを掛け持ちしているガイドもいます。
フィールドによっては山岳ガイドのように夏山・冬山といったように通年できるものもありますが、冬山は危険も多く装備も高価なものが必要になってくるのでやはり一般の方は少なくなります。ではウォーターアクティビティーガイドがオフシーズンとなる冬に何をするのかというと人によりますがそれこそスキー場で仕事をしたりしています。夏はラフティングガイド・冬はスキーインストラクターという人もかなりいます。人によって家業がある人は実家で仕事をしたり知り合いの農家さんのお手伝いをしたり全く別のアルバイトをしたりと様々です。メインシーズンの時期にもよりますが年間通して一つのジャンルだけでやっている人は本当にレアですしおそらくほとんどいません。
兎にも角にも自分が主軸でやっていきたいと思うガイド業のオフシーズンをどう過ごすかを決めていなければ無収入期間があるので続けていけません。ごく稀に北半球と南半球を行き来して通年ラフティングガイドをしている猛者もいますがこのような方は例外で普通は海外でいきなりガイドをしたいと言ってもビザや国際資格やらで門前払いされます。
現実②:ケガがつきもの
ゲストをケガさせてしまうというリスクももちろんですが仕事によっては自分がケガしてしまう場合もあります。「そんなこと言ったら全部の仕事そうじゃん!」となってしまいますがガイドはフィールドで仕事をするのでやはりケガのリスクも段違いです。詳しくは書きませんがゲストじゃないからニュースに出ないというだけで死亡事例もたまにあったりしますし、ケガして収入無くなって将来不安で一線を離れたというガイドもたくさんいます。
ケガをすると基本的には自己責任になり会社は何もしてくれません。ケガが多い仕事+季節限定の仕事ということもありオンシーズンだけのガイドは個人事業主に業務委託という形態をとっている会社が多いです。そうなるとケガをした場合には給与保証もなくただ収入がなくなるだけになります。擦り傷や捻挫など軽いケガで我慢しながらでも仕事ができればまだ良いのですが脱臼や骨折で安静となってしまうとどうしようもありません。そんな契約ダメだろ!!と言ってもそれならウチでは仕事させられないと言われて終わりです。
もちろんケガをしたくてするという人はいませんが万が一のことを考えるとなかなかリスキーな仕事ではあります。
現実③:ゲストにケガをさせる
一つ前の項でも少し書きましたがアウトドアスポーツにケガや事故はつきものです。基本的にゲストは初めてそのアウトドアスポーツを体験するという人達なので何が危険か理解していません。当然各社リスク管理はしていますがそれでも事故・ケガをゼロにすることはできません。そのため各社ツアー前には「死亡・ケガをした場合でも基本は自己責任で当社に責任はありません・・・」という誓約書にサインを書いてもらいますが、日本の歪んだ司法のもとではサインをしてもそんな契約は無効という判例が出ているので責任を問われます。ちなみにサインをしないとどうなるかですが、会社にもよりますが私がいたところではトラブル防止のためにも断っていました。
2023年の5月にみなかみ町(利根川水系)でラフティング事故が起こりました。記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか?裁判結果がどうなったかまではわかりませんがあの時もマスコミや会社はガイドのせいにしようとしていました。どうしても日本の世論は「ガイドがいたのだからガイドの責任!」という風潮が強く、会社も保身のあまり「会社としては対策していたがガイドは違うことをしたのかもしれない」と切り捨てる傾向にあります。
日本でガイドをする場合にはこのようなリスクを背負わせられるということも肝に命じておいたほうが良いでしょう。
(ちなみに海外のアウトドアツアーでは日本の理屈は通じない場所がほとんどなのでご注意ください。サインしたら「サインしたんだから今さらなに言ってんの?こっちに過失なんて無いよ。」で終わりの場所が多いそうです。先輩ガイド談)
現実④:肉体労働
アウトドアガイドというと好きなことをやってお金をもらっていて羨ましいと言われますが実際その裏にはかなりの肉体労働が潜んでいます。ガイドは職業上ゲストと行動を一緒にするため同じだけの距離を移動したり活動したりします。それに加えて機材の準備や点検・片付け・安全装備の携行など様々な業務があります。
こちらの画像のカヤックはどれも1艇15kg以上あります。これをトラックに積み込み体験会場やツアーをするフィールドの水辺まで運ぶのもガイドの仕事です。これくらいの量なら一人でやったりします。ギリギリまで車を着けられれば良いのですが多くの場合駐車場からボートを担いで歩かなければなりません。
ラフティングやカヌーであればゲストが来る前にボートを水辺まで下ろして準備していたり、ツアー後もゲストが使ったウェットスーツやライフジャケットを洗っていたりと付帯する作業が多く意外と大変です。しかもその多くが事務作業ではなく実際に体を動かして作業するものなのでほぼ肉体労働になります。ツアー時間は確かに楽しいですが、それ以外の業務が多すぎて嫌になってしまうというガイドもかなりいます。
アウトドアでありスポーツなので体力に自信の無い方はガイドに向いていないといえます。
まとめ
総合するとガイドは楽しい仕事ではありますが、それなりにリスクがありタフな仕事であるといえます。個人的にもっともやりがいを感じるのは1度きてくれた方が楽しかったからまた来ましたと言ってリピートしてきてくれた時です。一回きりでも楽しかったと言って笑顔で帰ってくれればもちろん嬉しいですが、今度は違う友達連れてきましたと2回目以降来てくれると本当にやって良かったなと思います。
やりがいもあり楽しく自分の好きな事を仕事にできるアウトドアガイドですがそれなりの覚悟と準備は必要でしょう。
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