
毎年夏になると必ずと言って良いほど水辺の事故が起きます。「川で遊んでいたら流された。」「海に飛び込んだら波で連れて行かれた。」「ため池に落ちて上がれなくなった。」理由や状況は様々です。
その中でも近年特に増えてきているのが『SUP(スタンド・アップ・パドル)』による事故です。
少し前にも富士五湖の一つ本栖湖で事故があったようです(ニュース記事)。
今回の件がそうとは言いませんが、日本の場合事故が起きると責任追及をした結果注意書きをしていなかったり、立ち入り規制を行っていない行政が悪いという話に行きがちです。そして最後には対応策としてただただ立ち入り禁止の場所が増えるということになってしまうというケースが非常に多い気がします。そうなると正しく遊べる人にとってはフィールドを奪われるだけの迷惑極まりない話になってしまうのです。
アウトドアスポーツ全般において言えることですが『リスクゼロ』は絶対に不可能です。自身の能力の限界に向き合った上で、内包するリスクを理解しどのような安全対策をとってどこまでのリスクを許容するのかが重要になります。
今回の事故原因については警察や専門機関が調査しているでしょうから憶測でものをいうようなことはしません。
ここではパドリング全般に携わってきたインストラクターの立場から、これから水辺のアクティビティーを楽しもうと思う方に向けて注意を促していければと思います。安全に楽しく水辺で遊ぶためには多少怖い話も受け入れなければいけません。ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
ライフジャケットも100%ではない・・・
水辺の事故が起きると必ずと言って良いほどライフジャケットの着用の有無がニュースになりコメント欄でも盛り上がります。しかし、残念ながらライフジャケットをしていたからといって必ず安全というわけではありません。
タイトルから曲解されがちなので先に書きますが、筆者個人としては水辺のアクティビティーにおいてはフィールド問わずライフジャケット着用は義務化しても良いのではないかというくらいの推進派です。ただしそれは「正しく着用された」「フィールドにあったライフジャケット」であればの話です。ライフジャケットも着用方法が間違っていたり、フィールドに合わないものを使っていたりすると逆に危険なことがあります。その説明もなくテレビや新聞では「救命胴衣は着けていなかった。」の一言で済ませてしまいます。
このライフジャケットの着用や選び方についてはこのブログの過去記事でも一度解説しているので気になる方は読んでみてください。
フィールドやアクティビティーごとに抱えるリスク『湖』✖️『SUP』
SUPの事故やカヌーの事故が起きると「SUP=危険」「カヌー=危険」といったようにフィールドに内在するリスクを無視してアクティビティーそのものが危険と認識されがちです。もちろんアクティビティーそのものにも内包するリスクはあるのですが、それがフィールドが持つリスクと重なることにより事故は起きるものです。この記事ではそのリスクと対策について解説していきます。
※必ずしもニュース記事の内容と関係のあるものではありません。※
SUPが持つリスク①:風に弱い
パドルスポーツ全般において言えることですが、カヌーやSUPボードといった水上の乗り物は非常に風の影響を受けやすいです。特にSUPは立って漕ぐので人間が帆のような役割を果たしてしまうのでより風の影響を受けやすくなります。
SUPの特徴としてはサーフィンと同じようにボード後方にフィンがついているので「ダウンウィンド」と呼ばれる追い風の際にはボードがよく走ります。また、フィンが安定装置のような役割も果たすのでコントロールが効きやすくかなり快適に漕げます。逆に「アップウィンド」と呼ばれる向かい風に入ると人間が帆の役割を果たして減速してしまい全然進まない上に、フィンが後方(スターン)にあるのでボードの前部(バウ)が振り子のようになってしまい進行方向を安定させるのが困難になります。

また、フィンが水中に深く突き刺さっているため楔のような役割を果たしてしまい横風を受けた際などはどんどんダウンウィンドの形になろうとしていきます。

漕ぎ出しは追い風で快適だったのに、いざ岸に戻ろうと思うと向かい風に襲われて疲労してしまい漕げなくなって遭難というのはこういったSUPの特性に起因するところもあります。
風を味方につける漕ぎももちろんありますが、一朝一夕で身につくものではありません。
まずはこのような特徴があるんだということを理解して漕いでいかなければなりません。
SUPが持つリスク②:疲れやすい
パドルスポーツ全般に言える事ですが、そもそも『漕ぐ』という動作はかなり特殊な動作です。日常生活ではまず行わないような動作をしますし、しっかりと漕げば普段トレーニングをしている人でも体験ツアーだけで筋肉痛になるくらいの負荷はかかります。
その中でも特にSUPは立って漕ぐので負荷が大きいのです。
カヌーの場合は座って漕ぐのでその分水面まで近くパドルも短くて済みます。また、お尻をつけて座っており、足も踏ん張りが効くのでボートに力を伝える箇所が多く安定しています。座っているので疲れてきたら少し寄りかかったりして疲労を逃すこともできます。
たいしてSUPの場合立って漕ぐ前提で作られているのでカヌーと比べてもかなりパドルが長くなります。パドルが長いということはその分テコの原理で漕ぐ際に負荷が大きくなります。またボードと繋がっている部分が足の裏しかないので慣れていないと力のロスがかなり大きくなります。


手で握っている部分からブレード(水かき)部分までの距離を見てもらえれば一目瞭然です。この距離が無ければ長いほど漕いだ時の負荷が大きくなります。SUPはパドルスポーツの中でもかなり長めのパドルを扱うスポーツなのです。
それ以前の問題としてしっかりと練習して足を踏ん張らなくても自在に重心を動かしてバランスが取れるレベルになっていないと立っているだけ(バランスをとっているだけ)で普通に疲れます。人によっては足を踏ん張りすぎて足の裏の「こんなところに筋肉あるの?!」というところが筋肉痛になったりするほどです。それくらい立っているだけで消耗します。もちろん座って漕ぐこともできますが、立つ前提でパドルが作られているので座るとものすごく長くなり持て余してしまいます。
他のパドルスポーツと比べても立ち上がったりパドルが長かったりと疲れやすい要素が揃っているのがSUPの特徴の一つです。
SUPが持つリスク③:落水時の衝撃が大きい
SUPは立って乗るので落水時の重心がかなり高いところから始まります。そのためライフジャケットをつけていたとしても一瞬かなり水中へ沈み込みます。沈み込むということは場所によっては川底や湖底の岩に身体を打ちつけて怪我をしやすくなります。また、落水の際というのは自分から飛び込んだり泳ぎに行かない限り基本的にはバランスを崩して落ちるので受け身を取れず、頭や手から落ちてしまい非常に危険です。安全な倒れ方もありますがフィールドや状況によって変わってくるのでここでは割愛します。
さらにSUPのパドルはかなり長いので、落水時ヘタに手から離すと自分の上に降ってきたりして怪我をします。SUPはそこまでのデータがありませんが同じようなアクティビティーでラフティングという川下りがあります。こちらの事故の9割はパドルと言われています。落水時に離したパドルが顔にぶつかって歯を折ったり額を切ったりという事故がかなり多いです。SUPは落水の衝撃が大きいのでビックリして水中でパドルを離そうものなら浮力で跳ね上がってしまい、ちょうど顔が水面に出たところに落ちてくるということが十分に考えられます。
いきなり直立の状態から膝をつかずに地面に倒れろと言われると結構怖いはずです。下が水とはいえSUPでバランスを崩して倒れる時というのはその形になります。慣れていないと精神的にも肉体的にもかなりの負荷がかかります。
SUPが持つリスク④:再乗艇に慣れがいる
SUPの良さは水上で落水しても再乗艇してリスタートしやすいということです。カヌーの場合種類によっては一度脱出してしまうと岸まで泳いで行って水抜きをしないと再乗艇できないものもあります。その点SUPは水上でもボードに乗れる上にその気になれば1人乗りに2・3人は乗れるのでツーリングなどではレスキュー艇としての役割も果たせてかなり汎用性が高い乗り物になります。
しかしながら再乗艇にも練習や慣れが必要です。落水するとライフジャケットを着ていても頭部しか水面には出ません。SUPは浮いているので自分の頭部と同じ高さにボードが来ることになります。足のつかない水中で掴みどころの少ないSUPによじ登るにはある程度練習が必要です。
さらに初心者用のボードというのは安定感を持たせるためにボリュームがあって大きいものが多い傾向にあります。ボードが大きいと乗っている分には安定して良いのですが、いざ水上で再乗艇しようと思うと大きすぎてよじ登れないことがあります。
それでは逆にレース用の薄くて細いボードなら上がりやすいのかというとこちらはもっと大変で、バランスが悪いので再乗艇しようとよじ登っただけでクルクル回ってしまい上がることができなくなります。
いずれにせよ上がるためのコツはありますが、どちらも練習が必要です。
フィールド「湖」が持つリスク①:風が吹きつけることがある
ここからはフィールドが持つリスクについて解説していきます。今回の記事では『湖』で起きた事故について取り上げていたので、今回は湖に潜む危険について解説していきます。

いきなりですが、この↑の写真を見てどう感じますか?SUPで漕げ出せそうでしょうか?
普段漕いでいる人やインストラクターであれば何の問題もないコンディションですが、自分がガイドをするとして全く初めての人をツアーに連れていくとなると割とギリギリのコンディションかなという感じです(ツアーというより貸し出しに近く、プールの監視員スタイルで危ないことをしている人がいたら止める程度でほぼ自由時間というツアーであれば余裕です)。

波の立ち方的におそらくですが写真の奥側から手前に向かって矢印のような向きで風が吹いています。写真とはいえ対岸が見えるレベルの湖でこれだけ波立つということはまあまあ風も強いです。SUPが持つリスクでも解説した「風の影響を受ける」がモロに現れるコンディションと言えます。
湖は流れもないし静水で安定していると思ってくる方も多いですが、実際は爆風で波も立つというところも少なくありません。風向きは地形や天候によっても大きく変わります。
広い湖、狭い湖、ダム湖など様々な形状の湖がありますがそれぞれに違ったクセのある風の吹き方をしたりします。
傾向としては大きな湖であれば時間帯によって決まった方向から湖全体に風が吹きつけ、風下の岸は波打ち際のようになります。逆に狭い湖や川を堰き止めたようなダム湖ではその日の気象や天候によって風が吹き抜けていくように吹いたりします。
初心者の方は特にですが、水面が揺れるくらい風が吹いている時は正直やめておいた方が無難です。
フィールド「湖」が持つリスク②:流れがないから偶然がない
湖は基本的には流れがありません。ダム湖などで上流の河川が流入してくるようなポイントまで行けば多少流れ込みを感じたりはできますが基本的には静水です。また、風の影響などで多少流れが出たり波が立つこともありますが、流れといっても通常はのんびりしていて気づいたら少し移動しているくらいですし、波といっても少しボードが揺らぐ程度です。
基本は静水で安定しているというのが湖の良さであり、初心者の方が手頃に始めやすいところなのでしょう。
しかし、この「流れがない」というのは裏を返せば「アクションを起こさなければずっとその状態」ということになります。少し話は逸れますが筆者のメインフィールドは川(急流河川)です。川は落水するとどんどん流され、その間は刻一刻と状況が変化します。そのためこの先どうなるかというのを安全に流される体制を確保しながら予測しタイミングよく実践していかなければなりません。川が難しいのはそのためで『状況判断×安全確保×予測×行動』を同時進行で流れの中で行うのでトレーニングが必要なのです。しかし、流れがあるというのは悪いことばかりではありません。偶然流れに乗って上がりやすい岸沿いに辿り着いたり、流れが強い危険な箇所では安全確保だけでどんどん流されて上陸しやすい場所まで連れて行ってもらったりと偶然良い場所に連れて行ってもらえるということもかなりあります。同時に波立つことによりボードも自分も立体運動するので、ボードが少し沈み込んで身体が少し浮き上がったタイミングなどではものすごく再乗艇しやすくなったりもします。このように流れの中では偶然良い形になるということもありますが、湖ではまずありません。
偶然が起きない湖では全て自力で解決しなければなりません。落水してもそのうち岸に流されることもありませんし、上がりやすい位置まで身体が浮き上がることもありません。実はガイド資格のリカバリー試験なども静水で行います。流水ではそれこそ偶然良い形になってしまったり足のつく位置まで流されるということがあるので本当の実力がわからないからです。
静水の再乗艇やリカバリーは実力が出る環境であり、決して初心者でも100%安心・安全な環境ではないのです。
自信がないのであれば足のつく範囲で一度練習してコツを掴んでから岸を離れるようにしましょう。
フィールド「湖」が持つリスク③:着岸できる場所が少ない
湖に限らず海もなのですが着岸ポイントが少ないというのもフィールドの特徴です。川も渓谷などに入ると急に着岸ポイントは減りますが、断崖絶壁が何キロも続いて助かるかどうかは別として上陸することもできないという川はさほど多くはありません。しかし、海や大きな湖は出艇ポイントと着岸のポイントがかなり限られます。ダム湖の場合などは出艇ポイントが唯一の岸でありそれ以外は断崖絶壁で足をつけることすらできないという場所も多数存在します。
このような着岸ポイントが限られるフィールドで着岸ポイントから離れた場所で落艇して再乗艇もできないとなると岸まで遠泳が始まります。
カヌーの体験ツアーでは水上での再乗艇ができないものを使っていたので転覆の際は近くの上がれるポイントまで泳いでもらっていましたが、体力のある20代男性でも自力で泳げるのはよくて50メートルほどです。「いやいやプールでならもっと泳げるよ!」と思うかもしれませんが、ライフジャケットをつけていたりシャツを着た状態なのでほぼほぼ着衣泳状態で抵抗マックスな上にパドルやらボートを持ってとなると全く泳げません。
ツアーであればインストラクターがいるのでボードとパドルは回収してくれたり、再乗艇を補助してくれたりと助けてくれますが一人できている場合は全て自身で行わなければなりません。
海や大きな湖に出る際はツアーなどに参加してインストラクターをつけるか、一人で出る場合も岸から離れないと決めて確実に再乗艇できるようになるまで練習してから徐々に距離を伸ばしていくことをオススメします。
フィールド「湖」が持つリスク④:他のボートもいる
海や大きな湖の特徴としては、エンジン付きのボートがいることがあるというのも挙げられます。
漁船・ジェットスキー・個人のクルーザーなど様々です。これらの船はSUPなんかよりも圧倒的にスピードも出ますし強度も高いので万が一ぶつかった際は非常に危険です。さらにSUPはボード一枚で水面に人が立っているだけなので視認性が悪く発見が遅れることもあります。
実際に数年前海でのSUPツアーにおいて漁船と接触し参加していた女性が一人亡くなっています。
直接の接触以外にも影響はあります。ジェットスキーやクルーザーなどはかなりスピードが出るので波が立ちます。この波が厄介で、クルーザーサイズの波になると初心者の方は通常立っていられません。インストラクターでも完全に油断していると落水するレベルの波が普通におきます。

先ほどの写真のこの波でも全くの初めてであれば怖いと感じる人もいますし、初心者が落水するには十分です。
クルーザーなどが通るとこのような揺らぎのような波ではなく、水面を切り裂いて生まれる本当の「波」が発生します。

湖でこの写真のように疾走するボートがいるかと言われればあまり見ませんが、少なくともジェットスキーは思いっきり疾走している人もいます。仮にゆっくりであっても大きなボートはその分質量もあるのでそれだけ大きな波を発生させることは間違いありません。
さらに遊覧船が運行していたり、ジェットスキーなどのアクティビティーが盛んな湖、漁業権があって漁船が出る湖などでは事前にルートや時間帯を確認して近づかないようにするという対策も必要になってきます。特に遊覧船などは多くの湖で運行経路が決められており、他のボートやジェットスキーなどとも棲み分けされていることも多いので知らずに入って運行妨害してしまうとトラブルの元です。しっかりと事前に確認しましょう。
まとめ
事故はそのアクティビティーが元々持ち合わせる危険な要素にフィールドが持ち合わせる危険要素が重なってさらに対策を怠った際におきます。
初心者で漕ぐ能力がそもそも足りていないのに出艇場所からは追い風で快適に出られて漕げていると勘違いしてしまったが、帰ろうとしたら向かい風で遭難してしまった。初めてで立ち上がれるかどうかもわからないのに波が立つような大きな湖に出てしまったなど危険要素が重なったのにスキルが見合わない際に事故がおきます。
誰でも最初は初心者ですし、そういった経験はするものです。漕げないのも落水するのもボードに上がれないのも全員通る道であり決して恥ずかしいことではありません。真面目に練習に取り組む意思が見て取れる人はツアーに関係なくても近くのインストラクターさん達は気にして見てくれていたりします。むしろ「ノリでいけるっしょ!笑」くらいの感覚で出てきてプルプル震えながらギリギリで立ち上がってできた気になっている人の方が周りから見ていてもずっと恥ずかしいです。
事故を防止するためには1回目だけでも良いのでスクールやツアーに申し込んでインストラクターさんに教わってみてください。最低限の漕ぎ方とそのフィールドに潜む危険は教えてくれるはずです。

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